自分の体が発するアラートに気づき、セルフメデュケーションで自分の体を守ることが大事

免疫系の亢進と低下という今回のテーマですが、僕は自律神経のアクセルとブレーキという観点からお話しさせていただきます。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経がアクセル、副交感神経がブレーキという考え方です。

新潟大学医学部教授の安保徹先生が提唱する、いわゆる安保理論というのがあるのですが、その一例に、梅雨時になると盲腸の緊急手術が必要な患者さんが多くなることについての研究があります。

一見、季節と病気にはなんの関係もないようですが、盲腸は感染症です。免疫力が低下すると起こりやすい病気ですね。実は、自律神経の機能が梅雨時に乱れて、細菌感染が悪化するのではという理論です。研究の結果、自律神経(交感神経)が活性化すると、好中球が増加して、その結果、活性酸素が多量に生成されて、免疫系が低下する、というものです。

アスリートの人たちにあてはめると、運動を過度にすると、交感神経が活性化しますから、一般的にはコルチゾールが生成されて、それが免疫系を低下させて、ウイルスに感染しやすくなるのではないか、とも言われています。

しかしながら、交感神経の機能亢進が体に悪いかというと交感神経機能が低下し、その状態が続いてしまってもよくありません。交感神経はアクセルですから、うつのような状態になって、そのことでも免疫系が落ちるような状態になってしまいます。適切なアクセルとブレーキが必要。自律神経のバランスが保てていないと、免疫系にも悪影響を及ぼしてしまう、ということなのですね。

僕の専門である突発性の難聴やめまいは、木の芽病といって5月に多くなります。メニエール病やめまい、耳鳴り、難聴といったものが増えるのですね。これは自律神経の乱れで引き起こされている可能性が高いものですし、患者さん自身、以前から自律神経失調症だと言っている方もいます。

実は、僕自身も習慣性扁桃腺炎を持っています。子供の頃から年に何回も繰り返していました。成人後も、研修医になって非常に忙しい毎日を過ごしているときや、子供が生まれて生活リズムが大きく変わった時も発症しました。つまり、ストレスを抱えていたり、オーバーロード、過度に心身を働かせていたり、という時期に炎症が起きることがわかったのです。ですから、これは自分の状態に対する黄信号である、と捉えられるようになったのですね。

他の方でも扁桃炎は5、6月に多いのです。根治的な治療として手術治療を考慮される方は、働き盛りの方が多いようです。ですから私は、扁桃炎の悪化は体の危険信号(サイン)ではないか、というような説明をしています。扁桃炎になることで休養せざろうえなくなりますから、それが自身のブレーキの役割を果たしてくれています。前の病院ではそういう方に漢方を処方していましたが、そのような説明とともにお渡ししていました。不思議なもので、そういうサインがあるのだな、とご自身が理解するだけでも発症の頻度が減ってくるのですね。

心の問題の方が大きいと思われる人をたくさんみています。気づきが乏しい方もいます。

周囲が気づきを与えるようにしても、気づかない、というか認めたくないのですね。認めてしまうと、なんとなく自分の存在価値が否定されるような気がして、受け入れられないのですね。それも度を超えると、アレキサイミア(失感情症)、アレキシソミア(失体感症)といって難治性の心身症リスクが増大します。

かといって自分の状態に敏感になりすぎても、今度は神経症ということになります。先ほどいった体のサインを自覚していない患者さんが多いのです。それが原因不明や難治症のめまいとなって現れたりするのです。どんな検査をしても、何ヶ所病院に行っても、わからない、と言われる症状の多くは心理、社会的なストレスが原因で発生していると言えると思います。

他に、免疫とストレスの関係でいうと、多発性硬化症なども、かなりストレスが関係している病です。ストレスの免疫攻撃で脳の細胞がやられてしまうのですね。リウマチなどもストレスが関係している、と言われています。

ストレスによって病気が治りにくくなったり難治化するというのは明らかにあると思います。発症のメカニズムまで関わっているかというと微妙ですが、ある病気になった時に、健全な治癒過程に乗らないのは、心理的社会的ストレスのせいではないか、というのはしばし経験しています。

とはいえ完全に心のせいだ、というわけではありません。1か0かのような考え方があるのですが、そうではなくて多くの病気は心と体、両方の問題があるということです。心は自分の方で治せるから、それで改善する可能性がある、ということだと思います。これは人によって割合が違います。ただし10対0ではないと思いますね。逆に心因性と言われているひとでも、体の問題が8割、ということもあるわけです。

意識というのは、自律神経に影響します。自分が「イヤだな」、と思うと過度に交感神経が活性化し、免疫力低下で体にダメージとなります。同じ事象でも、「いいじゃん、別に、」と思える人がいます。そして、「いいじゃん」と思えれば、ダメージにならない。この、良いか悪いかで物事を捉えることもしない、ということが大切です。僕たちは子供の頃から良い悪いを判断する環境で育ってきているので、それが脳に刻み込まれています。すぐさま無意識のうちに良い悪いを判断してしまう習慣がついてしまっているのです。ですから、一度、この良い悪いを判断することをやめるトレーニングもおすすめです。すべてプラス思考で「良い」ように捉えるのもそれはそれで限界がきてしまうのです。

良い悪いを判断しないで、ただそこに、その現象が起きた、と思う。そこで止めておくというのも一つの方法です。これがマインドフルネスの考え方です。自分が感じている感覚や感情、思考を冷静に観察している心の状態のことを言います。このような観察が無く無意識に思考が暴走してしまうのが反対のマインドレスの状態です。私たちは無意識にマインドレスの状態になってしまい自らストレスを作り出しているのです。

自分の心や体は、自分が主体となって守る。例えば、耳鳴りは環境音や音楽、または補聴器などを使いつつ自分で慣れるようにトレーニングをしなければなりません。めまいもリハビリでだいぶよくなります。つまり自分で努力をすればよくなるものが結構あるということです。医師主体の治療ではなく、患者さんの自助努力で治す、そういうように社会全体が気づいて、患者さん主体の治療になっていくと良いと思いますね。(談)

自分の体が発するアラートに気づき、セルフメデュケーションで自分の体を守ることが大事

東海大学 耳鼻咽喉科准教授 五島史行先生

専門
平衡神経学、鼻科学/めまいの治療
日本耳鼻咽喉科学会専門医/(日本めまい平衡医学会専門会員)

略歴
1994年慶應義塾大学医学部卒
2002年 - 2006年慶應義塾大学助手(医学部耳鼻咽喉科学)
2004年- 日本大学板橋病院 心療内科研究員
2009年 国立成育医療センター 非常勤医師
2014年 - 2018年独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 聴覚平衡覚障害研究部 平衡覚障害研究室 室長
2018年7月 - 現在東海大学 医学部 専門診療学系 耳鼻咽喉科 准教授

著書
薬に頼らずめまいを治す方法(アチーブメント出版)
一緒に治せるめまいと頭痛(金原出版)
自宅で治せる めまいリハビリ(金原出版)