免疫を中庸に保つ方法が望まれる

人間は病気をしないようにもともと免疫力を持っていて、それで健康が保たれているわけですが、この免疫反応が出過ぎてしまって(亢進)人体に悪さをしてしまう一例にアレルギー疾患があります。
アレルギー疾患の代表例が、小児科ではアトピー性皮膚炎です。これは強い症状を起こしてしまう病気の一つです。
他には、小児科、特に循環器領域で有名なものにはリウマチ熱というものがあります。これは幼い頃にかかりやすい溶連菌が引き起こすものです。溶連菌を治しきらないと、ノドに溶連菌が長年住んでいて、それを攻撃しようと抗体が産生されて、偶然ですが腎臓と心臓を攻撃してしまうというものです。ちゃんと治療をしておかないと、急性腎炎や心炎になる可能性があり、弁膜症にまでなってしまう危険性があるわけですね。
近年は減ったと思われていますが、実際にはあると思っています。いまだに成人の死亡原因の順位の下のところに「弁膜症」があるんです。例年同じような位置にあって、なくなっていないのです。いまだにリウマチ熱によるリウマチ性心炎というのは存在するのですね。ですから、溶連菌というのは症状がなくなったとしても、処方通りに10日間きっちり抗生物資を飲んでいただきたいと思います。

アレルギー疾患に代表される免疫の亢進によって起こる疾患や症状には、ステロイド製剤を使うことが多いです。小児科領域では川崎病も重症例では、ステロイドによる治療を行う疾患です。
その治療法を非常に簡略化してご説明をすると、ガンマグロブリンを点滴静注する、免疫グロブリン療法を行いながら、ステロイド製剤を使います。ステロイドの副反応である血液のかたまりやすさに注意しつつ、併用するということですね。
ステロイドで炎症を抑えるとともに、何らかの抗原抗体反応(免疫反応)が起きていると考え、ガンマグロブリンを点滴します。現在ではこの治療法でかなりの方が改善されます。免疫が亢進して起こる病気を、その免疫を抑え込むことで病気を封じるという治療法になります。
そのようにして改善する川崎病ですが、血管に炎症を起こす病気です。大人になれば問題はないことにはなっていますが、その血管の損傷のあとが残っていて後年に影響が出ることも考えられます。ですから、川崎病学会では改善後5〜7年は冠動脈を検査し続けたほうが良いとしています。大人の方で、小さい頃に既往歴がある方はぜひエコー検査を受けていただきたいと思います。

ステロイド、と聞くと、小児にステロイドを使うことに抵抗があるお母さんがもちろんいらっしゃいます。川崎病の場合、私がご説明する際は、「冠動脈の変化は1回起こると一生ものです。しかし、ステロイドの副作用による害は一時的なものなんです、と。一生に影響しない選択肢を取りましょう」というようにお伝えして、ご理解をいただいています。

免疫系の作用はアレルギー疾患だけではありません。一例では、感染症対策でも免疫が大きく関わっています。感染症は、大人や高齢者の方が重篤化しやすいです。これは子供の時はもともと免疫力が強く、年を経るごとに弱くなっていくと考えられているからです。例えばインフルエンザ予防接種があります。これは小学生では以前は必須でしたが、今は選択制になっています。これによって何が起きたかというと、高齢者のインフルエンザ感染が増えることになってしまったのです。子供は軽症で済むがその間にウイルスを伝染させてしまう。それによって高齢者の罹患リスクが高まってしまったのですね。
麻疹や風疹、水疱瘡といったワクチンの効果や小児の頃に一度罹患して問題ないと思っても高齢になる頃には抗体が不十分になったりすることがあります。高齢者に多い帯状疱疹も、水痘に対する免疫力が弱まって発症しやすくなっているとも考えられます。

そのような感染症の対策には、今流行中のものも含めて、効果的なワクチンの開発が求められます。とはいえ、ワクチンの安全性、とくに副作用に対する評価というのは慎重にならざるを得ません。私が渡米した頃、豚を起源とするスワイン・フルーという病気が流行しました。これを米国では、国策で緊急的にワクチンを開発したのですが、ギラン・バレー症候群が出やすいというデータが明らかになりました。この病気も免疫反応で起こると考えられる病気です。
今開発中とされる感染症へのワクチンも、その安全性への評価には数年かかると思います。ある人種にだけ副作用が強く出るということもあります。それだけ、免疫というのは難しい、まだまだ分からないことが多いものだと思います。

なんとか免疫を中庸に保つ方法がないか、と。 それが存在するのが一番良いと思います。適宜、この反応をすることが、自分の体にとって悪いかどうかを、免疫さんに頭脳があれば判断して欲しいな、と思っています。(談)

免疫を中庸に保つ方法が望まれる

帝京大学医学部小児科 名誉教授 柳川 幸重先生

東京大学医学部医学科卒業
昭和56年(1981)東京大学講師・病棟医長
平成13年(2001)帝京大学小児科主任教授
平成22年(2010)医療法人社団千歳会キッズクリニック院長就任

医学博士(東京大学)
日本小児科学会専門医
日本小児放射線学会代議員
(元)日本小児循環器学会暫定指導医
(元)日本小児循環器学会専門医試験問題作成委員
日本循環器学会会員
日本アレルギー学会会員
日本小児アレルギー学会会員
帝京大学名誉教授

専門は小児心臓病